分散型コミュニティ探訪

分散型コミュニティ探訪:Nouns DAO - Nouns Protocolが支える日次オークションと斬新な資金活用ガバナンス

Tags: Nouns DAO, DAO, ガバナンス, NFT, スマートコントラクト

分散型コミュニティ探訪:Nouns DAO - Nouns Protocolが支える日次オークションと斬新な資金活用ガバナンス

「分散型コミュニティ探訪」シリーズでは、注目の分散型コミュニティに焦点を当て、その内部構造、技術的な仕組み、ガバナンスプロセス、そして独特の文化を深く掘り下げてレポートしています。今回は、毎日自動的に新しいNFTが生成・オークションされ、その収益が分散型トレジャリーに蓄えられ、ユニークなガバナンスによって活用されているNouns DAOをレポートします。

Nouns DAOは、その前衛的なアプローチによって、DAOの新しい可能性を示す事例として大きな注目を集めています。単なるコレクティブルNFTプロジェクトに留まらず、日々生成されるNFT「Nouns」が生み出す価値をコミュニティ主導で社会に還元していくことを目指しています。本レポートでは、特にNouns Protocolの技術的な側面、資金の活用を巡るガバナンスの仕組み、そしてそこで育まれているコミュニティ文化に焦点を当てて詳細をお届けします。

Nouns Protocolの技術的側面:自律的な価値生成メカニズム

Nouns DAOの中核にあるのは、毎日午前0時(UTC)に新しいNouns NFTを自動生成し、24時間限定のオークションにかける「Nouns Protocol」です。このプロセスは完全にオンチェーンで実行されており、人の手を介さずに継続的な価値生成と分配のメカニズムが機能しています。

  1. オンチェーンでのNFT生成: NounsのNFTは、その特徴(Head, Glasses, Body, Accessory)がすべてオンチェーンで生成される、いわゆる「フルオンチェーンNFT」の初期の事例の一つです。これらの特徴は、擬似ランダム性を持つアルゴリズムによって組み合わされ、毎日ユニークなビジュアルを持つNounsが誕生します。この生成プロセス自体がスマートコントラクト内に記述されており、透明性と信頼性が確保されています。

  2. 日次オークション: 生成された新しいNounsは、自動的にオンチェーンオークションにかけられます。オークションは24時間行われ、最高入札者がその日のNounsを落札します。落札されたETHは、全てNouns DAOのトレジャリーコントラクトに直接送られます。この定期的かつ自動化されたオークションシステムが、DAOの継続的な資金源を確保しています。

  3. トレジャリーコントラクト: オークション収益が蓄積されるトレジャリーは、コミュニティのガバナンスによってのみ資金が引き出せるように設計されています。これは、いわゆる「コミュニティ金庫」であり、ここから資金を引き出すためには、後述する厳格なガバナンスプロセスを経る必要があります。この仕組みにより、資金の使途決定権が分散化され、特定の中心人物に集中しないようになっています。

これらの技術要素が組み合わさることで、Nouns DAOは独自の経済圏と資金生成メカニズムを確立し、それを基盤とした分散型ガバナンスを可能にしています。

ガバナンスモデル:Nouns Proposalとトレジャリー資金の活用

Nouns DAOの最大の特徴は、毎日入ってくるオークション収益という潤沢な資金を、どのようにコミュニティの決定に基づいて活用するかというガバナンスモデルにあります。ガバナンス権はNouns NFTの保有者(Noundersを含む)にあり、1 Noun = 1 票の権利を持ちます。

  1. 提案プロセス(Nouns Proposal): Nouns DAOの活動やトレジャリー資金の使途に関するあらゆる提案は、「Nouns Proposal」として提出されます。提案を提出するためには、特定のNouns保有数(現在は2つ)が必要です。提案は通常、まず公式フォーラムであるDiscourseで議論され、その内容が固まってからオンチェーンでの正式なProposalとして提出されます。オンチェーンProposalには、実行したいスマートコントラクトの呼び出し(例えば、トレジャリーから特定のウォレットアドレスにETHを送金するなど)を含めることができます。

  2. 投票プロセス: 提出されたProposalは、一定期間(現在は3日間)の投票期間に入ります。Nouns保有者は自身の持つNounsを用いて投票(賛成/反対/棄権)を行います。投票権は他のNouns保有者や信頼できるエンティティに委任することも可能です。Proposalが承認されるためには、特定の投票数(現在は少なくとも10票の賛成)と、反対票よりも多くの賛成票が必要です。また、拒否権を持つNoundersが存在し、緊急時や悪意ある提案に対して拒否票を投じることができます(これも閾値やタイムロックの制約があります)。

  3. 実行プロセス: 承認されたProposalは、自動的にタイムロックコントラクトに送られ、一定期間(現在は2日間)の遅延期間を経て、誰でもそのProposalの内容をオンチェーンで実行できるようになります。このタイムロック期間は、承認されたProposalの内容を最終確認し、もし問題があれば拒否権を行使するための猶予期間として機能します。

この一連のオンチェーンガバナンスプロセスは、透明性が高く、一度承認・実行されれば変更が困難であるというブロックチェーンの特徴を最大限に活かしています。トレジャリー資金の活用事例としては、クリエイターへの資金提供、公共財への寄付、Nounsの普及活動、技術開発支援など、多岐にわたります。コミュニティメンバーは、これらの資金がどのように使われるべきかについて活発な議論を行っています。

活動、文化、そして課題

Nouns DAOは、単なる技術的なプロトコルやガバナンスシステムに留まらず、独特の「Nounishness」と呼ばれる文化を育んでいます。これは、Nounsの世界観や価値観を共有し、それを広め、トレジャリー資金を公共財や有益なプロジェクトに活用していこうという精神性の表れです。Discordサーバーは常に活発で、様々なプロジェクトチームや議論グループが存在します。

トレジャリー資金の活用は非常に分散的かつ実験的であり、様々な分野(アート、音楽、アニメーション、ゲーム、教育、パブリックグッズなど)でユニークなプロジェクトが生まれています。例えば、Nounsをテーマにしたアニメーション制作、教育資料の作成、公共の場でのNounsアート展示などが資金提供を受けています。

一方で、Nouns DAOも分散型コミュニティ特有の課題に直面しています。 * ガバナンスのオーバーロード: 日々入ってくる資金によって提出される提案が増加し、全ての提案を追跡し、適切に評価・投票することがNouns保有者にとって大きな負担となっています。 * 資金活用の効率性: 多額の資金をどのように効率的かつインパクトのある形で活用していくか、その戦略策定と実行は常に課題です。 * 参加者のインセンティブ: Nouns保有者はガバナンスに参加するインセンティブを持っていますが、それ以外のコミュニティメンバーがどのように持続的に関与し、貢献できるかという点も検討されています。Prop HouseやAgoraといった補助的なツールは、より多くの人が提案や資金獲得に関われるようにするための取り組みとして導入されています。 * 「Nounishness」の維持と普及: コミュニティが拡大するにつれて、この独特の文化や価値観をどのように維持・普及させていくかも重要なテーマです。

これらの課題に対し、コミュニティはフォーラムでの議論、補助ツールの導入、ワーキンググループの設置などを通じて継続的に改善を試みています。

まとめ:Nouns DAOの挑戦と示唆

Nouns DAOは、日々の自動生成NFTオークションというユニークな技術メカニズムによって資金を生み出し、それを分散型ガバナンスによって活用するという、画期的なモデルを提示しています。特に、オンチェーンでの資金生成からガバナンス、実行までが一貫してプロトコルによって自動化されている点は、他のDAOにとって重要な技術的・組織的示唆を与えるものです。

その透明性の高いガバナンスプロセスと、コミュニティ主導での活発な資金活用は、分散型自律組織の可能性を広げています。エンジニアリングの観点からは、プロトコル設計、スマートコントラクトによる複雑なビジネスロジックの実装、オンチェーンデータ分析によるガバナンス参加状況の可視化など、多くの興味深い要素が含まれています。

Nouns DAOはまだ発展途上にあり、上述のような課題にも取り組んでいます。しかし、その実験的で自律的なアプローチは、将来のDAOや分散型コミュニティのあり方を考える上で、非常に価値のある事例と言えるでしょう。今後もNouns DAOがどのように進化し、そのトレジャリー資金がどのようなインパクトを生み出していくのか、引き続き注目していく価値があります。


本記事は、公開情報に基づき Nouns DAO の技術的側面、ガバナンス、およびコミュニティ活動についてレポートしたものです。個別の提案内容や資金使途の詳細については、Nouns DAO の公式フォーラムやオンチェーンデータをご確認ください。